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必死に風呂掃除したこともあって、いちごの受入態勢が整っていた。迅くんがまだ出てこないので、今日食べる分をパックから出して軽く洗うと、ガラスの器に移した。コロコロしてて、赤くて、かわいい。一粒摘まんで、味見しちゃおうかと悩んで、やめた。
食卓に腰掛けて、いちごをじっと見つめる。昔は練乳がないと食べられなかった。むしろ、練乳を舐めるのが好きで、それが母親にバレてちょっと怒られたりもした。この子は甘いかな。酸っぱいかな。
風呂の戸が開いた音がして、やや後に迅くんが現れた。
「あれ、食べててよかったのに」
わたしが頬杖をついて待ってるのを見て、迅くんはそう言った。
「一緒に食べたかったの」
迅くんはそっか、と言ってわたしの前に立ったかと思うと、わたしの膝の上にどかっと腰を下ろした。
「ちょっと、迅くん、重いよ」
「うん、じゃあ交代しよ」
そう言うと迅くんは立ち上がってわたしを引っ張り上げると、膝の上に座らせた。
「ほれ、飛鳥。いちごだぞ」
迅くんはいちごを一粒摘んでわたしの口元に運ぶ。甘い香りが鼻を掠めて、わたしはそれを口の中に迎え入れた。練乳なんかなくても食べられる甘さとちょっとだけの酸味。
「んま……迅くんもお食べよ」
「じゃあ、いただきます」
迅くんは親指でわたしの口をそっと押し開き、舌を吸い上げた。
チュッと音がして、わたしは思わず彼の腕を掴んだ。
「ほんとだ」
迅くんはふっと笑った。それはちょっと甘すぎるんじゃないかしら。
わたしはその一瞬の口づけで参ってしまう。
迅くんはいちごを摘まむと今度は自分の口に放り込んだ。
ごくんと喉が動くのを見ていると、迅くんはわたしの唇をぺろりと舐めた。わたしはたまらなくなって、迅くんの舌を求めた。甘い。あまい。
「いちごは、明日の朝食べよっか」
いちごがコロンと転がった音がした。
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