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「まあ、今日のところはこれくらいにしといてやるよ」
ピンクのあいつはすぐに倒せたのだが、鏡のあいつはやはり手強かった。
前腕が疲労で悲鳴を上げ、わたしの戦いは幕を閉じたのであった。
髪を洗って、体も洗って、浴室のドアに目をやると、迅くんのシルエットが見えた。
「飛鳥? まだ出てこないの?」
「掃除始めちゃったから時間かかっちゃった。もうすぐ出るから!」
そう返事をして、わたしは洗顔フォームをもこもこと泡立てる。ふわっふわにして、顔に広げた瞬間、ガチャっと音がした。
「んん」
顔面泡だらけで喋ることができない。
「はは、何この最高のタイミング」
迅くんの笑い声がした。わたしは体の向きを変えながら、シャワーのお湯を両手に溜めて、丁寧に泡を流した。
後ろに立っている迅くんが上からわたしの顔を覗き込んでくる。
「ここ、まだ泡ついてるよ」
迅くんはそう言ってわたしのおでこの泡を拭った。
ありがとう、と言ってぱしゃぱしゃとお湯をかけて流す。
「あれ、まだここもついてるよ」
迅くんはニヤニヤしながらわたしの胸の膨らみを突いた。
「嘘つくなー!」
わたしは迅くんの手を掴んで引きはがすと、シャワーを全身に浴びてそそくさと風呂を後にした。
「えー。減るもんじゃないんだしいいじゃん」
シャワーの水音に混じって聞こえた迅くんの声にわたしは返事してあげなかった。
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