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──あれからもう半年が経つ。
作造の心の傷は癒えてはなかろう。まだ子供だ。どれだけ親と遊びたかったことか。それを受け入れ、下手でも毎日漁の準備に夜明け前から励んでいる。できた子だ、と、いつも五島は思う。
「はじめっからできる奴なんぞいねえ。じっくり覚えてけばいいんじゃ。さあ、フカに破られん魚網の編みかたを教えたろう」
五島が麻を幾重にも重ねて編んでいく。作造は真剣な目で五島の指先を追った。子供の目が青年の目になりつつある。
作造は五島の言う通り、麻を何重にも結いながら、フカに齧られても平気な強い網を編んだ。なかなか五島のようにはいかないが、それでも三日三晩ひたすら編んだ。
風もゆるやか。漁として好日。作造はいつもの狙いどころへと舟を漕ぎ、魚網を投げた。竿を垂らして大物も一本釣りで狙う。
「よおし、今日はフカに獲物とられんぞ。こんなに頑張ったんじゃから」
その揚々とした顔を見て、五島はもっと沖へと舟を進めていった。
「作造がんばれ。いっぱしの魚釣り上げてみせい」
「おお。今日はおれが兄貴にご馳走するんじゃ。もう大丈夫じゃ。フカなんかにゃ負けん」
意気揚々と作造は漁に挑んだ。竿先のあたりを感じて巻くと、再びがつんと大きなあたりを感じた。急いで巻き上げるが、食われて頭だけになった石鯛が上がった。
「くそう。ご馳走じゃのに……」
夕刻、仕掛けていた魚網を引き揚げると、そちらもずたずたにやられていた。せっかく夜通しで編んだものだ。鋭利な歯で引きちぎられた痕がたくさん残っている。おそらく獲れていたであろう魚たちは逃げていた。悔しさで作造は泣きそうになった。
「フカのやろう。今に見てろ」
翌日もその翌日も、寝る間を惜しんで魚網を編んだ。編み終えると、作造は海に出て同じ沖合いを攻めた。
竿にあたりがあれば上げ、夕まづめを過ぎれば魚網をたぐる。その度に、網にかかった魚も、竿にかかった魚も毎日と食い千切られている。どれも同じ歯形がついていた。
「利口なフカじゃの。作造、男ならそいつを誘き出して釣り上げてみろい」
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