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それまで宮部はリビングのソファに布団を掛けて寝かせていた。風邪を引かないかと心配し、何度もベッドで眠るように声をかけていたけれど、宮部自らそこで眠るといってきかないし、上司、しかも男と寝たくはないのだろうと思っていた。一緒に眠るのに抵抗があるなら自分がソファで眠るといっても猛反対をされ、押し問答に負けていたのだが、今回の一件で考えはかわった。
宮部が嫌でなければ、ダブルベッドだし眠るスペースは問題ないからと声をかけたところ、小さな声で、はいと返事が返ってきた。
お互いベッドの端と端にスペースを取り、部屋の明かりを消した。身体は疲れているはずなのに、眠れる気がしない。小さく息をついた時、隣から宮部の声がした。
「あの……三上係長」
何だと答えると、数秒間をおき、掠れた声が聞こえてきた。
「僕の事、気持ち悪くはないですか」
「何で」
聞き返して、そうかと気付く。自分がゲイだという事を、宮部は知らない。
黙っていると、宮部はぼそぼそと話し始めた。
「僕、入社して半月程経った頃……朝の通勤時に貧血になって、電車の中で倒れそうになったんです」
「なんだ、ちゃんと飯を食ってなかったのか」
「すみません……目の前が真っ暗になって、息が出来なくて、でも電車の中だし、なんとかふんばって駅に到着したんですけど、ホームで動けなくなって……通勤ラッシュだし、周りの人の邪魔になってしまって、蹴飛ばされたり、邪魔だって怒鳴り声が頭の上から聞こえて、ほんとに情けなかったです」
通勤ラッシュ時のプラットホームは戦場だ。宮部の様子を想像し、三上は可哀相に思った。
「そしたら、僕の身体を抱き起こしてくれた人がいたんです」
「そうか、優しい人がいて良かったな。駅員か」
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