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三上が黙っているせいか、それとも元から喋り好きなのか、宮部は一人であれやこれやと話し続けている。ぱっと見た印象は地味で大人しそうな男だと思ったが、親しくもない上司に対してこれだけ話が出来るのなら、案外としっかりした男なのかもしれない。
そんな事を考えながら適当に相槌を打っていると、ふいに宮部の会話が途切れた。どうしたのかと隣を見れば、自分を見つめている宮部と目が合い、わずかに驚く。
「おい、前を向いて歩かないと転ぶぞ」
「すっ、すみません」
宮部は慌てて前を向きなおし、それから口を開いた。
「僕、三上係長と、ずっと、こんな風に……お話してみたかったんです」
三上は少々困惑した。畑も違うというのに、何故だろうと疑問がよぎる。自分は営業職で、宮部は新人とはいえ管理部所属だ。将来的には仕事上、ガチでやりあう事もあるかもしれない。そんな三上の気持ちをよそに宮部は耳まで赤く染め、俯きがちに歩きながら、更に言葉を続けた。
「それで、目の前に三上係長が歩いていらしたのでつい、思い切って呼び止めてしまって……よく考えたら凄く失礼ですよね、どうしよう、すみません、一人で嬉しくなって、勝手に……」
急に頭を抱えだした男に、三上の方が慌て始めた。
「お、おい何だ急に、一人で凹み始めるなよ」
きゃっきゃと喋っていたかと思えば突然落ち込み始めた。なんなんだこいつは。女子か。
「こんな機会、滅多にないと思って……ご迷惑もかえりみずに、すみません! やっぱり一人で行きま」
放っておけば走り出しそうな男の二の腕を慌てて掴む。
「落ち着け。店はもうすぐそこだし、別に迷惑じゃない」
三上は顔を真赤にして謝る宮部を見下ろしながら、調子の狂う奴だなと呟き、宮部に気付かれないように、小さく微笑んだ。
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