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恋愛話は極力避けたいというのに、お局様方はその話題が大好物だから困る。
「いませんよ。まだまだ独身を謳歌しますから」
イケメン腹立つ~と黄色い声で怒られても返しようがない。自分の容姿など特に際立つものもなく、雑踏に掻き消される程度に十人並みだ。それに実際恋人はいないし、結婚なんて夢にも想像できない。
ふと、半年前に別れた恋人を思い出した。五歳年上の、綺麗な男。上京して通い始めたゲイバーで出会い、その日のうちに付き合いが始まった。我儘で気分屋な性格だったが、無邪気で可愛い人だった。恋愛経験皆無の田舎者に、様々な知識を与えてくれた。彼のおかげで自分は随分と成長出来たと思う。長いつきあいだったから別れた時は悲しかった。けれど追いすがる程の気持ちは起きなかった。
「三上係長って、最寄り駅は南千住だよね」
女性社員の質問に、そうですよと答えると、あ、やっぱり、と笑顔を向けられた。
「うちの新人君も南千住だから、見かけたら優しくしてあげてね」
新人と聞き、先程の男を思い出す。同じ駅を利用しているとは知らなかった。
「宮部、でしたっけ。見た感じは子供みたいな」
話のタネにと振ってみると、女性陣には可愛がられているのか、皆が話題に乗ってきた。
「そうそう。結音くん、ちっちゃくて可愛いよね~」
「ゆのん?」
聞きなれない音に首を傾げると、彼の名前だと教えられた。
「彼ってぱっと見、地味でネガティブそうに見えるけど、まあ実際地味でネガティブなんだけどね。仕事は一生懸命だし、中身は結構大人なの。しっかりしてるところがギャップ萌えっていうか」
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