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第二章☆母の面影
「私は、もうあんな奇妙な目に遭うのはこりごりよ」
尚美は父親に言った。
「しかしな、向こうから気に入られてるから」
「冗談じゃない!」
「それに、母さんと会えるかもしれんがな?」
「お母さん?失踪したんじゃなくて向こうにいるの?」
尚美は変な脱力感を感じた。
「俺たちで協力して母さんを連れ戻せるかもな」
「本当に?」
「その気になればなんだってできるさ!」
ヒロツグのそういうノリがついていけないと尚美は思った。
「助けて助けて!」
かわいい女の子が逃げてきた。
尚美の近くの物陰に女の子は隠れていたが、彼女を追っかけてきている一団の怒りようはただ事じゃなく、一体何をやったんだ?と尚美は訝しんだ。
「もう、向こうに行っちゃったよ」
「ありがとう」
鈴の音みたいな声だ。長い黒髪はふっさりと白い顔を縁取って、とても可愛く見える。
「ちょっと一緒に来て」
「えっ?」
女の子は空飛ぶ旅行カバンに乗って、尚美を連れて成層圏まで上がった。
「何ここ?」
尚美が信じられない思いでつぶやいた。
「ほら、宇宙人が地球にアクセスするときに、ジャングルの奥地にいる原住民にコンタクト取った場合、言語は通じなくて、棍棒でガツンと一発相手を叩く習性の人だったらどうなると思う?」
「へ?」
「だから、ここで宇宙人を食い止めなくちゃ」
尚美はわけが分からず女の子を見つめた。
あれ?誰かに似てる。誰か・・・母さん?
もしかして自分の妹じゃないよね?と尚美は焦った。
「こらー!」
「あっ!きゃー」
先刻の一団が女の子を見つけて追いついて来た。
女の子は尚美を足元に何も無い状態で置いてきぼりにして逃げ出した。
…浮いてる?
「なんであの子追いかけてるんですか?」
「あの娘のせいで、求婚者がひどい目にあって、たちの悪い大入道がみんなに迷惑かけてるんだよ!」
話がさっぱりわからなかった。
「尚美!」
はっと気づくと家のリビングだった。父親が毎回、できるだけなんでもないように振る舞っている。尚美はだんだん頻繁に「あちら」へ行くようになり始めていた。
「お父さん!私、妹に会っちゃったかもしれない!」
興奮してまくしたてる尚美を落ち着かせてから、ヒロツグは「その女の子は多分、母さんの妹だよ」と言った。
「彼女たちはこっちと時間の流れが違う世界にいるからちっとも年を取らないのさ!」
「そんなわけないでしょ!」
「いいや、ある!」
ヒロツグは自信満々だった。
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