記憶喪失前に伝えたかったこと

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 私の能力については説明していたけれど、婚約破棄や修道院のことについては話していなかった。婚約破棄も修道院も一応公表されていない話だし、特に何も聞かれなかったし。 「嫌だった?何故だ?」 「何と言うか……、悪友と言いますか、そんな感じなので結婚相手に見えないと言いますか……」  上手く説明が出来ないな。ローデリヒ様も首を捻る。うーん、男女の友情って恋愛に変わる事もあるし……、ちゃんとした理由とは言えない。 「……大勢の盗賊に武器を持たずに単体で突っ込んで全滅させたり、素手でクレーター作ったり、刃物で切り付けられても無傷だったり、猛毒飲んでも平気な顔してるルーカス(馬鹿)は、正直タイプじゃないんです。あと会えば小言言ってくる姑みたいだし……」 「………………それ、人間か?」  数十秒黙り込んだローデリヒ様が必死に私の言葉を噛み砕いて、唖然とした。 「一応人間です……。魔法の属性が肉体強化に特化して、常時発動してるだけで……。私の精神属性と同じような感じで発動しているんです」 「そう……なのか……」  明らかにローデリヒ様はドン引きしていた。気持ちは分かる。あんなに話し方も雰囲気も優しそうなルーカスが、実は馬鹿だとは思うまい。上手い具合に猫を被っている……、と見られがちだけれど、素だったりする。  つまり、頭の良さそうな馬鹿なんだ。
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