プロローグ

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プロローグ

今日は珍しく雪が降る朝だった。 昨日も寒くてたまらなかったが、今日は一段と寒い。 手は悴んで、鼻は真っ赤に染まる。これではまるで、トナカイだ。 紺色のタイツに首元には真っ赤なマフラー。 防寒対策を完璧にこなしてきたはずなのに、寒さは今日を満喫する気満々のようだった。 はぁ…と大きく息を吐く。真っ白に色付けられた私のため息は、私の気分とは裏腹に上へ上へと上がっていく。 今日は珍しく雪の降る日。 とぼとぼと足取り重く歩く私の横を、犬を連れたおじさんが通り過ぎていった。 寒そうに身をふるわせるおじさんと、珍しい雪に興奮をかくせていない大きな犬。 地面に降り積もる雪の上に、足跡がポツポツ増えていくことが少し面白い。 そんな光景を横目にもう一度大きなため息。 なんだかずっと、その光景を見ていたいという欲が湧いてきたがそうはいかない。 私は震える指先でスマホを取り出し、画面へと視線を落とした。
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