『パラレルワールド』

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須賀遥生は、今年21歳になった。 そして、永井菜々がいなくなって五年の月日が経っていた。 いつも通りの朝を迎えたかったが、懐かしい夢を見たせいか、目が覚めても涙が止まらなかった。21にもなって恥ずかしい。 夢の中の話は少しおぼろげになっていたが、彼女が初めて泣きながら俺の家の前にいたとき。あの日の夢を見た。 彼女の家は少し複雑で、彼女がとても辛い思いをしていたことを知っていた。だからこそ、一番の理解者でありたかった。一番支えられるような人に。 あの日、彼女は俺の腕の中で子供みたいに泣きじゃくった。 落ち着いたら再び話をした。彼女はパラレルワールドという言葉を持ち出した。 「私が知らない私が、遥生と一緒に幸せに過ごしてくれる世界があったらいい」 と、腫れた目をふにゃりとさせる。 その時は、「そうだね」なんて単純な言葉で返した。だが、本心はそんなこと思っていなかった。俺は、今の菜々に幸せになってほしかった。無力な俺には何も、傍にいることしかできないけれど、笑って幸せになってほしかった。 それを口にするのは、今の菜々の心情を否定しているようで口には出せなかった。俺が自分の力で菜々を助けられるようになるまで、これは口に出すべきではないと判断した。 それは、いつまでも菜々の隣に居られると思っていた俺の、浅はかな考えに過ぎなかったのだ。 そして、高校一年の冬、悲劇が起きた。
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