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はーっと大きなため息をついた後、深緑色のコートを羽織って外に出る。
いつもと変わらない平日。それなのに、俺はあの場にふらふらと足を向かせた。
大学に合格してから、俺は一人暮らしを始めた。県内の大学だし、家から通えない距離でもなかった。だが、何としても自立をしたかった。それは、あの日の戒めだったのかもしれない。
俺は親に頼みこんで、大学周辺のアパートを借りた。
大学へ行って、バイトをして。家に帰ったら自炊して、風呂をあがって、布団に潜り込む。そんな特になんの思い出もできない毎日を三年ほど続けている。
家から歩いて数分ほど先にバス停がある。無意識に出てきてしまったせいで時間を把握していなかったが、時刻表を見るとちょうど数分後に来ることを知った。俺はそのまま立ち尽くして、バスを待ち続けた。
バスはそう待たずともやってきた。行先は、街の中心だった。俺はその三つ前のバス停で降りる予定だ。
バスに乗り込み、整理券を取る。幸運なことに、今日は席が空いていた。平日だからだろうか。
俺は後ろから二番目の窓側の席に座った。
バスは少し早めに着いていたらしい。後二分後に出発予定だ、とアナウンスが流れる。
特に何もすることはないので、ただ動かない窓の外の景色を眺めた。桜の木がたくさんの蕾をつけ、春の準備をしている。今日は晴れ晴れとした天気だった。あの日とは正反対だな、なんて忘れられない情景と対比する。
さっき気がついた。今日は、あの日からちょうど五年が経過していた。昨日の俺は、それを思い出していたのかもしれない。部屋にあったビール缶の数は五本だった。
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