74人が本棚に入れています
本棚に追加
桜が遠くへと離れていく。バスが動き出すと、目に映る情景を次々に変えていった。
乗客が乗ってきては、降りていく。それを数回繰り返している内に、バスの中は俺と二人の乗客だけになった。
市内に行くのに少ないのは本当に珍しい。そう思っていると、バスはすぐに目的地に着いた。
整理券と共に料金を支払う。車掌さんがマイク越しに「ありがとうございました〜」と言っているのを聞きながら降りた。
ここで降りる人はあまり多くない。学校がすぐ近くのバス停なので、生徒と近所の人くらいしか乗降しないのだ。ここから真っ直ぐ行けば、俺の母校だ。
遥生はハァと息を吐くと、真っ白になった息は上へと上がっていく。
あぁ、もうあれから街は少しずつ変わっているのに。
見慣れない家や店がぽつぽつと出来ているのを見て、そう思った。
バス停から真っ先に「あの場所」へと向かった。あの日を思い出しながら、なるべく再現しながら。
ハァッ……ハァ……
走り出す。久しぶりに走るので、息が切れやすい。
あの日は学校で、遅刻ギリギリだった。菜々は俺のことを直前まで待っていてくれて、俺が追いかけたらすぐに追いついた。
走って走って走って……
たくさんの家を横切った。学校が徐々に見えてくる。
あの時と変わらない…。あそこで菜々が息を整えていた。
少しづつ、あの日と情景が重なる。
「!!」
遥生は目を見開いた。あの日の菜々が見えた気がしたのだ。瞬きをして再び同じ場所を見るが、やはり幻覚だったと思った。そこには誰もいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!