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遥生は一心不乱に走り出した。何かに操られているかのように身体が動く。心の奥底で、何故か確信していたものがあった。
自分でもこんな体力を持っていたのかと信じられないほど走る。高校でもこんなに本気で走ったことなどない。もう時間を調べる余裕もなかったので、バスも電車も使わなかった。
学校から数十分走り続けると、大きな病院が見えた。あの病院は、遥生と菜々が事故にあった後、送られた病院だ。
まさかこんな形でまたここへ訪れるとは。俺は自動ドアが完全に開くのを待ちきれず、滑り込むように院内に入った。
だがすぐに、難解な壁にぶつかった。
「受付を行いますので、面会申請書にご記入をお願いします」
「あっ……」
入口から数メートル先の受付で大きなハードルが。
受付を行う三十代程の女性は、誰にでも行うであろう貼り付けたような微笑みをこちらへと向けてくる。
何も用意していなかった(考えていなかった)遥生の頬を冷や汗が伝った。
「どうされました?」
ボールペンを持ったまま、申請書と睨み合う遥生に女性が声を掛ける。
俺はどうしようも出来ず、狼狽えることしか出来ない。そんな遥生を見る女性の目が、少しずつ訝しげなものに変わっていく。
こういう時に、自分のコミュニケーション力の無さを実感するのだ。遥生の脳内に何個かの選択肢が浮かぶ。
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