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①何も言わず逃げる
②事情を説明する
③強行突破
どれも絶対駄目だ……。どうしよう、なんて言えば……。
これが失敗すると、これからこの病院へと足を運びにくくなる。だが、こういう時に限って、最適な考えなど浮かびはしないのだ。
「えっと、あの…な、永井菜々ってこの病院に居ますよね」
あ、やってしまった。血の気が引いていくのがじわじわと分かる。
迷うどころか、予想外の方向に口が滑ってしまった。
「永井……菜々さんですか」
受付の女性は首を傾げ、パラパラと何やら手元にある書類を確認し始めた。
その意味の無い行動をじっと見つめながら、遥生は次に誤魔化す言葉を必死に考えることしかできない。
女性は一通り書類を見終わると、遥生の方へと再び向き合った。
「永井菜々さんという方はこちらの病院にはいらっしゃいませんよ」
当然だ。
「……あ、ぁぁそ、そうですか。わざわざありがとうございます」
言葉を続けるに連れて、顔が自然と引き攣っていく。
そりゃそうだ。遥生は心の中で一人ツッコミをする他ない。
女性にお礼を言って、去るしか選択はないだろう。遥生は大きく落胆して、行動に移そうと口を開く。
「あの、本当にありが」
ここまで口に出したとき、
「……永井、菜々?」
と、後方から声が飛んできた。驚いた遥生が振り返ると、そこには六十代ほどの白衣を着た男性が立っていた。
横には、同じく白衣を着た四十代ほどの男性がいる。
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