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遥生は目を瞑り、昨夜の自分の行動を思い返す。
辛かった。苦しかった。もう、逃げたかった。逃げたら許されるかもしれないなんて思った。
だから、忘れようとした。
遥生は目を見開いた。急に我に返った遥生を見て、皆川も少々驚きを見せる。
「なにか、思い出した?」
「確証はないのですが……」
俺はもう、菜々を忘れたかった。忘れることが最善だと自分に理解させた。だから、命日の前日と知りながらコンビニで有り得ない量の酒を買い、喉に流し込んだ。
1本目を飲み終わっても、忘れるわけがなかった。2本目、3本目も…。ひたすら涙が流れるだけだった。
4本目に差し掛かった辺りから、身体が浮くような感覚になった。自分の頭の中に少しずつ霧がかかっていくような、そんな感覚。
気持ちよくて、抗おうとは思わなかった。
5本目はもう、覚えていない。
部屋にあったビール缶はそういうことだったのか。自分で行動を起こしておきながら、すっかりと抜けていた。
「俺は、昨日、菜々のことを忘れようと思いました」
皆川の目が少し開く。
「辛かったんです。苦しかった…。忘れることが救いになると思っていた」
彼女の顔にかかっていた霧が、少しずつ晴れる。
「そうか、そうだったのか。多分、永井さんは君に忘れられたくなかったんだろう」
「……はい」
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