『パラレルワールド』

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「須賀くん!?」 先生の声が背後から飛んでくるが、反応する暇もなく部屋を飛び出す。 病院で走ってはいけないことなどわかっている。だが、それでも遥生は行かねばならない場所があった。 ホールへと戻り、階段を駆け上がる。幸い誰も歩いていなかったので、2個飛ばしで這い上がれた。 2階へとたどり着き、また階段を駆け上がる。ぐるぐると同じ場所を回っているような感覚……。階段の踊り場に3の文字が見えると遥生は足を落ち着かせた。 荒い息を抑えようと深い呼吸を繰り返す。顔から出る熱気を袖で拭い、3階ホールへと出た。ナースステーションにいる女性の方たちに会釈だけをして、奥へと歩みを進める。 全身の血が沸騰しているかのように、身体が熱い。自分でも、鼓動がどんどん大きくなっていっていることがわかる程だ。歩みを止めたいと思う気持ちも片隅にはあった。これから行く所が本当に行って良い所なのか。後悔しないのか。 それは、俺自身にも分からない。考えることは、苦手だ。 遥生は廊下の突き辺りが見えてきたところで、そこから左側の病室の目の前に立った。 ここは、俺は5年前に入院していた部屋だった。 辛い記憶が鮮明に脳裏に焼き付いている。 開けていいのか。本当に。 鼓動が耳にまで響いて、頭痛を起こしてくる。俺は意を決して目を瞑り、大きく深呼吸をした。 震える指先を扉へと向ける。グッと引き戸の長いドアノブを掴み、横にスライドをした。
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