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ゆっくりと扉を開く。俺は目をうっすらと開けて、目に入った光景に息を飲んだ。
1人の少女が、ベッドの脇で座り込み、俯いていた。肩下までにかかる長い髪が、ぱさりぱさりと耳から落ちている。少女は静かに肩を震わせていた。
後ろ姿でも、俺にはわかる。そこにいるのは、永井 菜々だ。
言葉が出てこない。何を言えばいいのか……。
喉の奥が熱く、口を懸命に開けることに必死だ。
言葉を振り絞れ、大丈夫だ。
遥生は静かに言葉を紡いだ。
「菜々……?」
目の前の少女が肩をびくりと震わす。そして、ゆっくりと立ち上がると、こちらへと振り返ってきた。ふわりとなびく髪と共に、雫が飛ぶ。彼女は涙で顔が濡れていた。
くりくりとした瞳を大きく開き、固まる。
あの時と、5年前と変わらない姿でこちらを見上げている。俺はあの時よりも少し背が高くなったので、彼女との距離が離れているように感じた。
菜々としばらく見つめあったものの、彼女は一切言葉を発さなかった。いや、発せなかったのだろうか。菜々は、俺以上に驚いているようだった。
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