『パラレルワールド』

17/33
前へ
/76ページ
次へ
ゆっくりと扉を開く。俺は目をうっすらと開けて、目に入った光景に息を飲んだ。 1人の少女が、ベッドの脇で座り込み、俯いていた。肩下までにかかる長い髪が、ぱさりぱさりと耳から落ちている。少女は静かに肩を震わせていた。 後ろ姿でも、俺にはわかる。そこにいるのは、永井 菜々だ。 言葉が出てこない。何を言えばいいのか……。 喉の奥が熱く、口を懸命に開けることに必死だ。 言葉を振り絞れ、大丈夫だ。 遥生は静かに言葉を紡いだ。 「菜々……?」 目の前の少女が肩をびくりと震わす。そして、ゆっくりと立ち上がると、こちらへと振り返ってきた。ふわりとなびく髪と共に、雫が飛ぶ。彼女は涙で顔が濡れていた。 くりくりとした瞳を大きく開き、固まる。 あの時と、5年前と変わらない姿でこちらを見上げている。俺はあの時よりも少し背が高くなったので、彼女との距離が離れているように感じた。 菜々としばらく見つめあったものの、彼女は一切言葉を発さなかった。いや、発せなかったのだろうか。菜々は、俺以上に驚いているようだった。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加