『パラレルワールド』

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言葉が上手く出てこない。口をはくはくと動かし、どうにか言葉を紡ぐ。 「菜々…なのか?」 掠れた声でそう問いかけると、菜々は静かに目を見開いた。 そして、大きな瞳から大粒の涙が伝っていく。 「遥生なの…?」 そのたった一言で、俺は目の前にいる彼女が菜々なのだと確信した。俺の名前を呼ぶ彼女を、俺が一番よく知っているからだ。 だけど、彼女はもう死んでいる。 目の前にいる君は、幽霊なのか? いや、そんなことはあり得ない。信じない。 じゃあ俺が作り出した妄想だろうか。 …そんなことは、どうでもいいかもしれない。 泣いてる彼女を見ていると、俺の家の目の前で泣いていたことを思い出す。両親に酷いことを言われて咄嗟に逃げてきた時の菜々…。 あの時は、場違いかもしれないけど本当は嬉しかった。菜々はちゃんと俺を頼ってくれていたって、そう思えたから。 でも俺は、何もできなかった。泣いている菜々を抱きしめることしかできなかった。今思えば、もっとできることはたくさんあったはずだ。 目の前のことで常にいっぱいいっぱいだった俺には、当然、何をすればいいのかわからなかったのだ。 あの日、菜々はなんて言っていた? “私が知らない私が、遥生と一緒に幸せに過ごしてくれる世界があったらいい” ふと、脳裏に菜々が目を腫らしながら笑った情景が映った。
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