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すると、セールスマンの顔が見る見る角張った所が円やかになり女らしい顔に変貌して行って本当に美人になってしまった。
「どうです。この赤いのだけでなく青いのもお飲みになれば、体の方も変貌してスタイル抜群の完全な美人になれるんです。そうなれば、玉の輿に乗れて人生が薔薇色に一変するに違いありません。いかがいたします?お買い上げになりますか?」
緑は狐につままれた思いがして猶もセールスマンの美人顔に見入りながら、「あの、お幾らでしょうか?」
「二つ合わせて2000万円です。」
「2000万!」
2000万払うとなると、普通預金のみならず定期預金を全部下ろさなければならない。
つまり全財産を投げ出さなければならない。
しかし、それと引き替えに美人になれる。
そしてセールスマンの言う通り玉の輿に乗れて人生が薔薇色に一変する。
それが実現するのなら2000万は決して高い額ではない。
暗黒の人生を送って来ただけに緑にはそう思えた。
「薬如きに2000万とお思いになるかもしれませんが、何せ秘薬でしてね、こんな美人になれるんですから安いもんですよ。明日のこの時間にまたお伺いしますからお求めになるのでしたらそれまでに2000万を用意しておいてください。では私は黄色いのを飲むとしましょう」と言ってセールスマンは黄色の液体が入った薬瓶をボストンバックから取り出してそれを飲み干すと、顔が元通りに戻って行った。「この黄色いのはお客様には必要ないですね。では、一日間、失礼します。」
セールスマンがそう言うなり、そそくさと去って行くと、緑は夢ではないかと疑う気持ちが生じてほっぺを抓ってみた。
「痛い!現実だわ!ファンタジックな現実。ファンタジーが現実にすり替わったみたいだわ!」
緑は胸に抱くファンタジックな夢がすべて適うようなオプティミスティックな気分になった。
そして夢に向かってポジティブになるも流石に2000万下ろすのは抵抗感があり相当な思い切りが必要になったが、幸運をみすみす逃す訳にはいかなかった緑は、必要額を下ろす決心をした。
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