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 翌日、例のセールスマンが約束の時間通り緑の宅にやって来た。 「どうです?お買い上げになってくださいますか?」 「はい。買うことに決めました。」 「そうですか、ありがとうございます。ではこのアタッシュケースに札束を詰め込んでください。その間に私は薬の成分を調合いたしますから。」 「えっ、あの、魔法の秘薬は出来てないんですか?」 「直ぐ済みます。魔法の秘薬は新鮮なほどよく効きますからここで作るのです。」 「そうですか・・・」  緑は既に液体の調合作業に入ったセールスマンに納得させられて札束をアタッシュケースに詰め出した。  やがて、「はい、終わりました。札束も詰め終わりましたか?」とセールスマンは聞くと、「はい。」と答えた緑に赤い液体が入った薬瓶と青い液体が入った薬瓶を渡してからアタッシュケースを閉じて取り上げ、「これで取引成立です。では失礼します。」とだけ言うや、颯と去って行ってしまった。  その途端、緑はファンタジックな夢が逃げて行く気がして心細くなり不安に駆られ、セールスマンを引き戻したくなったが、兎にも角にも姿見の前へ行ってまずは赤い方を飲んでみた。  ところが、自分の顔をまじまじと見ても一向に何の変化も起こらない。  それで緑は青い方を飲むまでもなく騙されたことに気づくと、激しく髪を掻き毟り出し、気が狂わんばかりに泣き叫び、絶望に打ちひしがれ、あとはもう自殺する道を選ぶしかなくなってしまった。 
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