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 緑は因果な事に生まれつき容姿が芳しくなく、子供の頃から差別や虐めに遭うばかりで友達が一人も出来なかった上、思春期になると、ニキビが沢山出来て気味が悪い程、醜くなったので人間形成で最も大事な時期に当たる中学高校時代を棒に振り、ダメダメ人間になってしまった。  だから大人になってからも苛めようと寄って来る者はいても仲間になろうと寄って来る者はおらず、友達はおろか男も出来ようはずがなかった。  で、人間との接触を極力避け、独りの生活をエンジョイ出来るよう仕事をしなくても暮らしていけるだけの金を成る丈、早く貯める為、只管、節制して貯金して地道に我慢して仕事を続けた。  そうして到頭、人間関係に完全に行き詰まって仕事を続けることに限界を感じた39歳の年に目標にしていた金額を貯めることが出来たのは不幸中の幸いだった。 「これで毎日部屋に籠って小説を読んだり映画を観たりしてファンタジーな物語のヒロインになった気分に浸ることが出来るわ!」  そう目論んだ緑は実際ファンタジーにどっぷり浸かる毎日を送るようになると、現実の世界と幻想の世界との区別がつかなくなる程、妄想が激しくなって行った。そんなオタクな緑の宅へどんな不器量な人でも美人に変貌させてしまう魔法の秘薬を扱うというセールスマンが訪ねて来た。  緑はファンタジーに浸っているだけに魔法という言葉にも秘薬という言葉にも惹かれてセールスマンを中へ入れることにした。  見ると、セールスマンは正にファンタジーの世界にいそうな不思議な雰囲気に満ちていて未だ嘗て出会ったことがないその風体が緑にとっては好感が持て、彼の言うことを何でも信じる気になった。  そこへ付け込むかのようにセールスマンは魅惑的な笑顔で魔法の秘薬について語りだし、その効能を示す為、ボストンバックから赤い液体が入った薬瓶を取り出して、それを飲み干した。
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