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事
ガチャリ。部屋のドアがベタな音を立てて開く。開けたのは、体格の良い男。髪は後ろに撫で付け、目付きは鋭い。黒のスーツを着こなしている。男は部屋を一望した後、ソファーに腰かける。その際、ドスンとベタな音がする。男は黙ったまま目の前の箱を見つめる。箱は中途半端な大きさだ。大き過ぎず、小さ過ぎない。丁度良いとも言われる。男が箱を見つめ始めて、少し時間が経つ。男は急に懐に手を入れる。銃を握ったのだ。少し腰を浮かせ、いつでも撃てるようにする。何故急に警戒しだしたのか、理由は廊下にある。足音がするのだ、廊下から。その足音はだんだんと近付いてくる。そして、この部屋の前で止まる。男が顔に緊張の色を見せる。ガチャリ。またベタな音を立て、ドアが開く。開けたのは、背は高いがヒョロッとした男。無造作に金髪を伸ばしている。先客の男と同じく黒のスーツを着ている。先客との違いは、だらりと着崩している所だ。黒髪は銃から手を離し、ソファーに腰を下ろす。金髪は気だるげに手を上げる。黒髪は無言で頷く。それぞれ別の動作で挨拶を交わした後、金髪は部屋を見回し、黒髪の向かいのソファーに座る。ヒョロッとしてるため、ドスンの出番は来ない。金髪は箱を見つめた後、「これなのか?」少し緊張した面持ちで、箱の向こう側に問う。黒髪は短く「あぁ」と答える。金髪は腕時計に目をやり、「後、50分」と何かの時間を黒髪に教える。「そうか」黒髪は無表情で答える。沈黙が部屋を通り抜ける。5分程経った後、金髪がおもむろに箱に手を伸ばす。「おい、何してる」黒髪が低く問い質す。「いや、ふと気になって」金髪は黒髪の鋭い視線を無視して返す。「箱は開けない。それが条件だ」黒髪が睨みを利かして言う。「にしても、変な条件だよな」金髪はソファーにもたれ掛かりながら呟く。「ボス直々の命令だ。上のそのまた上の事情があるんだろ」黒髪も諦めた口調で答える。「その言い方、調べたな?」金髪が茶化す。「フッ、少しな」黒髪は相好を少し崩す。また沈黙。そして沈黙に足音が響く。足音は段々と大きくなる。黒髪が金髪に目で合図を送る。カチャリ。遠慮気味にドアが開く。開けたのは清掃員らしき装いの中年。中年は軽く頭を下げて部屋に入る。「ちょっと待ってくれ、掃除用具も無しに何の用だ?」金髪が軽い口調ながらも鋭く問う。中年は一瞬呆けた表情をして、部屋の外にある用具カゴを引き寄せる。「すいません」中年は半笑いで軽く頭を下げる。「いや、俺の早とちりだったよ。すまないね」軽く謝り、金髪はまたソファーにもたれ掛かる。中年は用具カゴを部屋に引き入れ、カゴの中に手を入れる。カッ!黒髪が目を開き、懐から銃を取り出す。「ん?」金髪が首をかしげた次の瞬間。黒髪の銃口から火花が散る。金髪が「ゲッ!」と言ったのと、中年の頭が吹き飛んだのは同時だった。中年の頭部は壁に広く飛び散った。そして中年だった物が崩れ落ちる。一瞬の静寂。からの混乱。「な、なにやってんだ!」金髪が叫ぶ。黒髪は立ち上がり、中年だった物を足で退ける。そしてその先にある用具カゴの中に手を入れた。引き出した黒髪の手にはマシンガンが握られていた。「まさかこいつ、刺客だったのか?」金髪が未だ信じられぬといった顔で聞く。「そのようだな」黒髪が平然と答える。黒髪はマシンガンを用具カゴに戻し、中年だった物をカゴに押し込む。中年だったものは入りきらず足がはみ出る。「こーゆー作品、美術館にありそうだよな。現代アート的な」金髪は平素の口調に戻り、ふざける。黒髪は無言で用具カゴを観葉植物の隣に移動する。ドスン!ソファーに座った黒髪はリボルバー銃に弾を装填する。「未だにリボルバーかよ」金髪は呆れる。「使い慣れてる銃の方が良い」黒髪は銃を懐にしまいながら言う。またまた沈黙。これまでの沈黙と違うのは壁半分が赤い事だけ。足音もない、本当の沈黙が訪れる。「オッ!そろそろじゃん」金髪が時計を見て呟く。「後どれくらいだ?」黒髪が聞く。「んー、後5分」金髪が答える。「そうか」黒髪は気を引き締め直す。「いやー、小さな箱一時間見てるだけで500万って良い仕事だなぁ」金髪が嬉しそうに言う。「最後まで気を抜くな、それにお前は10分遅れて来ただろ」黒髪が皮肉る。「ハハッ、確かに」金髪が笑う。次の瞬間、ドアを突き破り、男が入ってくる。侵入者の手にはマシンガン。金髪と黒髪が反応する前に、侵入者は引き金を引く。ズダダダダダダダ!金髪と黒髪は黒のスーツに無数の穴を開けられ、ソファーからずり落ちる。既にテーブル付近の床には赤い水溜まりが出来ている。侵入者は無感動に銃を下ろし、テーブルに置かれた無傷の箱を持ち上げる。既に動かぬ物となった黒髪が来てから丁度一時間が経った。次の瞬間、箱の中にあった時限爆弾が爆発した。爆発はテーブルを、侵入者を、赤いシミの付いた壁を、何もかも吹き飛ばす。
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