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その日もずっと雨が降り続いていた。雨の音は部屋からこぼれそうなほど満ちていて、だけど彼女の声は混じらずにそこにあった。
なんでみんな死ぬの、とつぶやいたから、それはしばらくして呻き声になった。
彼女が育てていたウーパールーパーは死んだ。朝起きて、水槽をのぞいたら腹を上にしてぷかぷか浮いていたらしい。調べるとぷかぷか病という病名が出てきた。(それは浮遊病とも呼ばれる)。
世離れしたその姿にその病名を当てた人は正しい。私は何度か彼女のウーパールーパーを見たことがあった。半透明のやわそうな肌は、彼女の慈愛を受け続けるには少し敏感すぎた。赤白い半透明の体はもう白く濁り、水に沈めても元には戻らない。
後処理は私がした。水槽は、水を替えて元の場所に、死体は川に流してやった。川に流したの?この雨できっと迷子になってしまうね、と彼女は言った。
彼女の部屋に電気はない。電球を外した穴だけがぽっかりと空いている。前は水槽のポンプがぶくぶくと泡を吐きながら弱い青白の光を放っていたが、今はそれもない。
窓は天井近いところに、細く、東に向かって開いていた。朝にだけ光を通し、あとは白くぼうっと壁から浮かんでいる。
静かで、暗い、底のような部屋。
もっとも今は雨音がしつこく響いていたが、それがむしろここの静けさを浮き上がらせているように思える。
ウーパールーパーの死以来、私は毎日この部屋にいた。
彼女は慈愛を向ける先を失っていた。自分以外の存在を求めていて、そしてちょうどよく私はそこにいた。これは利害の一致だった。彼女はきれいだし、見ていて悪い気持ちはしない。彼女はそれに、形を求めているだけでその中身を求めているわけではない。
だから彼女と私は、呼吸するように話し、食事するように触れ合った。
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