第6章 あやかし子狐と三日月オムライス③

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『……色々と世話を掛けた』  食事会を終えると、銀胡はこむぎを抱いて庭に降り立った。 『……また、いつでも遊びに来てください』  私もサンダルを履いて庭に降りる。真夏の庭は緑に溢れて、降り注ぐ日差しがキラキラと眩しかった。 『じゃーね……こむぎ』 『元気でな』  縁側からシュンが手を振った。その後ろで、神様と天太君、豊月さんが見守っている。 『またね……』  少し言葉に詰まりそうになりながら、私はこむぎに微笑んだ。  こむぎは不思議そうに私と銀胡の顔を見比べている。 『なーや?』  それ以上は言葉に出来なくて、私は手を振って見せた。  銀胡が背を向ける。庭を出て行く銀胡の肩から、ひょこりと小さな顔が覗いた。 『なーや!』  いつもとは様子が違う事を、こむぎなりに察したようだ。みるみるうちに、こむぎの顔が赤く、しわしわになっていく。 『……や、……やー!』 8d413754-602f-42a4-a384-fb4f16723623  大粒の水滴が丸い頬を次々と伝って、小さな手がもがくように空を掴んだ。 (……そう言えば、こむぎが泣くところ……初めて見た)  どこか痺れているような頭は、意外と冷静な事を考えていた。  こむぎのまだ見たことがない顔も仕草も、きっともっと沢山あったのだろう。 (……考えないようにしなくちゃ)  はっきりと感じてしまったら、私の心が持たない気がした。 『なーやー!』  銀胡の背中が遠ざかって行く。  走り出しそうになる足を必死に留めて、私はじっと親子を見送った。  視界いっぱいに太陽の光が溢れて、二人の姿はすぐに見えなくなってしまった。  
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