894人が本棚に入れています
本棚に追加
奏汰なら、きちんと説明すれば疑ったり騒いだりせず理解してくれるだろう。
ただ、大切な生徒を怪しい世界に引き摺り込まないようにしなければという気持ちは本当だった。
しかし、我々と一緒に居る時間が長くなるほど、彼が怪異に触れる機会は多くなる。
シュンは、気持ちを絞り出すように呟いた。彼の願いは、とてもシンプルなものだった。
『……限られた時間かもしれないけど、出来るだけ長い間、奏汰と友達でいたいんだ』
その言葉に、こむぎの母親の横顔が蘇る。
人間と妖怪の間に、流れる時間の差は大きい。それはこれまで何度も感じてきた事だった。
その違いについては、考えても変わらないし、その分一緒に居られる今を、より楽しい時間にしよう。私はそう思ってきた。
しかし彼にとっては、今が楽しければ楽しい程、失う瞬間の恐ろしさはどんどん膨らんでいくのだ。
(こむぎと居た時間も、とても楽しかった……だから私は……)
その大きな痛みは、私自身もたった今、味わったばかりなのだ。
だからと言って、出会わなければ良かったなんて事は絶対にない。
限られた時間なら尚更、精一杯楽しめばいい。問題があるなら、ちゃんと向き合って一緒に乗り越えていけばいい。
『……うん、今度ちゃんと話そうか。今まで黙ってた事、私も一緒に謝るよ』
私が微笑むと、シュンも顔を上げてにっこりと笑った。
『ありがとう……! 夏也も、出来るだけ長く一緒にいてね』
『もちろん!』
『わしにも出来るだけ長く美味い飯を作り続けてくれよ?』
神様がいつの間にか台所の入り口に立っていた。
『もう、私は神様の専属料理人じゃありませんってば!』
私は苦笑いしつつも、さっきまでの寂しさから、少しだけ立ち直る事が出来たのだった。
最初のコメントを投稿しよう!