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終章 きんいろベーカリー
照りつける日差しから逃げるようにアーケードの日陰に入ると、私はやっと一息吐いた。まだ午前中だというのに外は酷い暑さだ。
商店街を進んで行くと、直ぐにいつもの食欲をそそる香りが漂ってくる。
大きな木製の扉の前には、もう人だかりが出来ていた。
『お店再開して本当に良かったわ〜。新しい店員さんもう見た? ちょっとクールな感じだけど、ワイルドで素敵じゃない?』
『そうね〜、でも私はやっぱり爽やかな店長派かな〜。人手が足りて無かったのかしらね、バイトが必要なら私絶対応募したのに〜!』
『私も〜!』
列に並ぶ主婦達が、きゃっきゃとお喋りしていた。
(なかなか評判良いみたいじゃないか……)
私は彼女達の後ろに並んで、うちの神様のようにニヤニヤしながら順番を待った。
店内に入ると、美味しそうなパンと楽しそうなお客さんの姿が目に飛び込んでくる。
『あ、夏也さん』
声を掛けられて振り向くと、天太君がトングとトレーを持って立っていた。
『天太君も来てたんだ』
『はい。早めに来ないと無くなっちゃうんで……それにしても忙しそうっすね』
カウンターに目をやると、真白さんが忙しそうにレジを打っている。
『うん。お店続けられて良かったね』
真白さんは、あの後も宇迦様にこってりと絞られたようだが、何とか許しをいただいて、人間界の監視役とパン屋を続けさせて貰える事になったそうだ。
但し、条件として仕事がもう一つ上乗せになっていた。
即ち、盗賊妖狐が二度と騒動を起こさないように、見張り続ける業務である。
『コーンパン、クロワッサン焼立てです……』
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