序章 月下の影

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(こいつを連れては逃げきれないか……)  先の戦闘では、これを庇いながらかなりの術を放っていた。残された妖気も少ない。  山を二つ三つ駆け下りて、もう大分人里に近い所まで来ている。ここからは身を隠すのも難しくなってくるだろう。  俺はまた暫く走り、柔らかそうな下草が生えた茂みの影に、それをそっと横たえた。 『ぐずって声を上げるなよ。奴等を巻いたらまた戻ってくる。それまで耐えてくれ』  そう言って俺は直ぐに立ち上がると、少し離れた場所まで走ってから、あえて音を立てながら遁走した。  狙い通り追っ手の注意は俺に向けられたままだ。 (俺の気はいずれまた満ちる。迎えに行くまで、どうか無事でいれくれ……)  そう願いながら、俺は眼前に広がった沢を飛び越え、さらに速度を上げて走り続けた。
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