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序章 月下の影
月は有明。木々も岩も、辺りは深い闇に沈んで黒く塗り潰されていた。夜陰に紛れ疾走を続けて数刻。
夜目は効く。暗い山林を駆け抜ける事は造作もないが、追っ手はかなり執念深い。加えて、先程ふくらはぎに受けた矢の傷が少し此方の分を悪くしていた。
『毒矢とはまたタチが悪い……』
多少の矢傷やただの毒であれば、なんともないが今回は相手が悪かった。加えてもう一つ、
『う、うー』
俺の腕の中で、それは小さな声を上げ、もぞもぞと手足を動かしていた。
カッ!
己のすぐ脇に生えた幹に、鋭い音を立てて矢が突き刺さる。
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