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霞が晴れた日
その夜わたしはまた夢を見た。朝顔をくれた彼の夢だ。
夢の中の彼は笑顔でわたしに手を振って、背を向けて歩いて行った。
ただそれだけの夢だった。もう二度と会えない気がした。
だけど、不思議と悲しみは感じず、心は晴れわたっていた。
翌朝にはだるさはすっと抜け落ちていて、熱が下がっていた。
夏風邪が長引かなくてほっと一安心だ。
いつものように起床して朝食をつくる。
包丁で具材を切る音、お湯から立ち上る湯気、ご飯の炊ける匂い。
変わりない日常が回りだす。朝食を作り終え、食卓に着くと旦那様わずかに微笑んで、
「来年は二人で朝顔市に行こう。さくらこさん」
と言った。
初めて、旦那様がわたしの名前を呼ぶ。
嬉しくてくすぐったい気持ちになる。
わたしは笑顔で頷き返した。
「はい! 晴彦さん」
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