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旦那様が食卓につき、食事が始まる。
二人で手を合わせて、箸をすすめる。
「お味の方は、どうですか?」
枝豆ごはんを咀嚼していた旦那様に問いかける。
旦那様は伏せていた目を少し上げて、
「ああ、悪くはない」
と言うと再び箸を動かし食べ始めた。
旦那様の返答はいつもこんな感じだ。
いいとも悪いとも断定しないが、黙々と食べ続けている様子を見ると不味くはないんだなということが分かる。
それから二言三言、会話とも言えないような会話をして食事を終えた。
会話よりも沈黙が多いのはいつものことだ。
旦那様は寡黙だし笑ったり喜んだりする顔をあまり見せない(そのかわり不機嫌なときは、すぐに顔に出る)。
だけど、わたしが重い荷物を持っていると何も言わずに持つのを手伝ってくれるし、雨が降っていれば、自分よりもわたしに傘の面積を譲ってくれる。
何よりも旦那様は優しいのだ。
それにわたしは旦那様との間に流れる沈黙の時間が、不思議と息苦しくなかった。
まるでそれは砂時計に詰めたさらさらの綺麗な砂が、ゆっくりと落ちていくような穏やかな心地のようで。
とにかくわたしは旦那様のもとへと嫁げて幸せなのだ。
何一つ不満なんてない満ち足りた贅沢な生活を旦那様から頂いているのだから。
わたしには夜の日課があった。
その日課は青い朝顔をくれた彼の写真を眺めることと、当時書いていた日記を読み返すことである。
このことは後ろめたさもあって旦那様には秘密にしている。
隠すようなことでもないかもしれないが、旦那様に申し訳ない気がするからだ。
当時の日記には何の変哲もない日々がつづられている。
主な内容はその日の出来事だったり、彼と話した内容が多い。
読み返していると彼との楽しい思い出がまざまざと脳裏によみがえってくる。
旦那様が書斎での仕事終えるまでの間、わたしは日記や本を読んだりして過ごした。
書斎から旦那様が戻ってくると、わたしの長い一日は終わりだ。
深い夢の世界へと潜っていき、朝日を待ち眠りに落ちていく。
最近どうも疲れているのか、その日はすぐに寝入ってしまった。
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