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「調子はどうだ?」
しばらく眠ってから目を覚ますと、枕元に旦那様が座っていた。
お盆の上には桃の缶詰と薬が置いてある。
わたしが眠っている間に買い出しに行ってくれたのだろう。
「ええ、大丈夫ですよ。熱はありますけど気分は悪くないです」
「そうか。朝飯というには遅すぎるし、昼飯には早いが……食事をつくったんだ。食べるか?」
わたしは少し驚いた。
旦那様は普段台所に入ることもないし、料理を作っているところも見たことがなかったからだ。
「はい。食べたいです」
わたしはちょっとの期待と嬉しさを胸に答えた。
旦那様は台所に行くと、ひとり鍋を運んで戻ってきた。
鍋の蓋を取ると、ほかほかのお粥と爽やかな青ジソの匂いが鼻孔をくすぐった。
お粥の上には細かく切られた梅も添えられている。
れんげでお粥を掬い、口に運ぶ。
「……?」
何だろうか。わたしの知っているお粥とは違う味がする気がする。
それに気づいた旦那様もお粥を口にした。
味を確かめるようにしたのも束の間、旦那様は眉をひそめた。
「「甘い?」」
旦那様と私の声が重なって、お粥の味が発覚する。
「すまん。塩と間違って砂糖を入れてしまったらしい。不味いなら残しても、かまわない」
旦那様はバツが悪そうに頭をかいて、お粥から目を逸らした。
「いいえ、食べますよ。そこまで不味くありませんし、せっかく旦那様が作ってくれたのですから」
「そうか、くれぐれも無理はするなよ」
わたしは笑顔で頷いた。
旦那様の言葉は端々に優しさが宿っている。
わたしはお粥を食べて、そのあと薬を飲んで休んだ。
その間、旦那様は文机に向かい仕事をしていた。
書斎で仕事をすればいいのに、ずっとその場から動かない。
よっぽどわたしのことが心配なのかもしれない。
そう思うと少しだけ嬉しかった。
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