10人が本棚に入れています
本棚に追加
花言葉は
「それで……その男とはどうなったのだ」
旦那様は気まずそうに腕を組んで、視線を床に落とした。
わたしは少し目を伏せてから言った。
「彼は…………戦争に行って、亡くなってしまいました。種を一緒にまく約束も守らずに」
「そう……なのか」
旦那様は安心というよりも、同情しているような表情を浮かべている。
「おまえは俺のような男と夫婦になって、幸せか?」
よっぽど不安だったのだろう。
旦那様の声は震えて、瞳の奥の光が揺らいでいた。
「ええ、わたしは幸せです。お見合いをしたあの日からずっとわたしは幸せです。旦那様はとてもお優しい……わたしにはもったいないくらいに。……それにわたし思うことがあるのです。彼がくれた朝顔はお告げだったんじゃないかと」
「お告げ?」
「はい、旦那様は青い朝顔の花言葉を知っていますか?」
「ああ、たしか……」
旦那様が思い出す前に、わたしは花言葉を口にした。
「儚い恋」
自分自身で口にして泣きそうになってしまったが、旦那様に言われてしまうほうがいたたまれなかった。
シーンという音が聞こえてきそうなほど家中が静寂で包まれる。
わたしも旦那様も、世界中の人もいなくなってしまったように感じる。
その静寂を破ったのは旦那様だった。
「これは俺の勝手な解釈だから聞き流してくれてかまわない。青い朝顔の花言葉は確かに儚い恋だが、朝顔全体にはほかの花言葉がある。朝顔自体の花言葉は『愛情』、『結束』だ」
わたしは驚きを隠せずに手で口を覆った。
今まで見ていた世界が180度変わったように、色づいた気がした。
ご都合主義でもその解釈を信じたいのは、愚かなことだろうか。
唇をぎゅっと噛みしめる。そうしないと瞳から熱いものがこぼれてしまいそうだったから。
「俺は彼がおまえとの強い絆を望んだと解釈したい。決して青い朝顔がお告げなんかじゃなかったと……」
珍しく饒舌になった旦那様がそこで言葉を区切ると力なくうなだれた。
最初のコメントを投稿しよう!