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夢
肌越しにじっとりと広がってくる熱が、自分の身体と薄い肌掛けが合わさってしまったかのような錯覚を覚える。
夏風邪がほかの季節よりもつらく感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
風邪をひいて熱が出るのは、いつでも楽ではないが夏はとりわけ苦しい。
体を包み込む大気の熱と自分の体温が、ドロドロと入り混じり境目が曖昧になる感覚がなんとも気持ち悪い。
せっかくの夏休みなのだから友達と祭りに行ったり、家に遊びに行ったりしたかったのに……。
母は買い出しに出かけて家には誰もいない。
なるべく早く帰ると言っていたが、なかなか帰ってこない。
床に伏して帰りを待つ時間は途方もなく長く感じられた。
ヒグラシの蝉時雨が遠くから聞こえてくるだけで、家の中は静まり返っている。
そのことが余計にわたしの孤独感を増幅させた。
リーンと縁側の近くに掛けられている風鈴が鳴いた。
いつもなら風鈴の音が涼しく感じるのだけど、今はちっとも涼しくない。
ただ風邪の辛さが嵐のごとく去るのを、じっと我慢して耐えるだけだ。
私は少しの間、目を閉じた。
眠れそうにない。
土を踏みしめる足音が縁側のほうから聞こえてくる。
薄目を開けて、縁側のほうへ体の向きを変えた。
はっきりと目を開けなくても、すぐに彼だとわかった。
浅黒い肌にがっしりとした体つき、笑うと糸のように細くなる目元。
その笑顔が好きなのに霞がかかったように彼の顔が見えない。
彼は後ろ手に持っていた物を私に見せてくれた。
それは青空を切り取ったような色の美しい朝顔の鉢植えだった。
傘を広げた朝顔の花が何輪も咲いている。
吸い込まれそうな青を見ているだけで、熱が少し下がったように感じたのは錯覚だろう。
彼は何かしゃべっているが口をパクパクしているだけで、私に声は聞こえない。
突然に視界がぐにゃりと歪んでいく。
どうかしてしまったのだろうか。
わたしはそこでようやく気が付いた。
これは夢なんだ、と。
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