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その日の教習所の見極めは晴れてAになった。ただ、朝、佐久間先生にハグしてもらってから、私の頭の中は夢のあとのようで、ぼんやりしてその日のことはよく覚えていない。その時の担当の教官によると、ぼんやりして『心ここに非ず』という感じだったそうだ。
夜、先生にラインを送った。
『先生、見極めAになりました。明日合格したら、またドライブに連れて行って欲しいな』
既読は付かなかった。
まあ、先生も忙しいし……。私は眠りについた。
:
朝、目を覚ますと先生からのメッセージがあった。
『今日の卒業検定、頑張れ!』
布団の上に正座してそれを読む。タイムスタンプは午前三時二十二分。それは先生が起きた時間だろうか、いや寝た時間だろうか。と、色々考える。これではストーカーだ。
少し寂しくなった。卒業したら、先生はまた私をハグしてくれるだろうか。
:
晴れて、私は卒業検定に合格した。
検定を担当したスキンヘッドの武藤という教官が一番いい運転だった、と褒めてくれた。
私は合格証明を受け取ったあと、受け付けの女性からアンケートを受け取り、待合室のソファーに座っていた。
佐久間先生が近づいて来た。心臓が高鳴って、先生に聞こえるんじゃないかと思った。深呼吸した。耳たぶが熱い。
「じゃあ、三浦さん、アンケート書きに行きましょうか」
と、先生が白い歯を見せてくれた。
:
私は『相談室』と書かれた小さな部屋に案内された。ムッとした空気に汗ばんだ。すぐに、古いエアコンがゴオとその部屋には音を立てて、冷たい風が吹き出した。
「三浦さん……合格おめでとう」
「ありがとうございます。佐久間先生……」
佐久間先生がアンケート用紙とペンを折り畳みの机に置いた。
「名前は無記名で……あと、ここと、ここに感じたことを書いて……」と、ノック式のペン先を出して渡してくれた。
「先生、ここには何と書けば……」と私は先生を見た。
「えっと……」
先生が私の手元を覗き込む。
ちゅ……。
えっ……?
先生が私のおでこにキスした。
先生がまっすぐに私を見る。私は恥ずかしくて、そこから目を逸らせた。
先生の顔がアップになる。
私は、すっと、と目を閉じた。
先生の冷たくて柔らかい唇が重なった。啄むようなかわいいキスに身体の奥がキュンと鳴いた。
啄むような可愛いキスはすぐに離れた。
先生の目を見た。
「あっ……」
先生の笑顔を見て、また目を閉じる。
先生の舌が唇に入る。
舌先で先生の舌を追いかけた。
先生の舌も私の舌を追いかける。
先生の唇がすっと離れた。
私の身体は初めてキスをした女の子のように小さく震えていた。
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