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店員が料理を運んで去って行った後、僕はその質問に答えた。
「いつも、物語を読んでいますよ。ファンタジーが好きなんです。あとはミステリー」
「いいですね! 何かお勧めとかないですか?」
いつもはすれ違うだけの女性と、まさかこんな風に同じ話題で盛り上がれる日が来るとは、夢にも思っていなかった。僕はバクバクと鼓動を鳴らし、楽しそうに僕に話しかけてくれる女性との一時を堪能した。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
僕に倣うように手を合わせて女性と、同時に笑顔を溢す。
「僕はこれで失礼します」
「はい。また、会えるといいですね」
「はい。……あ、そうだ。一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
立ち上がろうとした僕は、もう一度腰を下ろして尋ねる。不思議そうに首を傾げた女性に、言葉を続けた。
「その甘い香り、香水ですか?」
「はい。……臭かったですか?」
「ち、違います違います!」
悲しそうに、申し訳なさそうに上目遣いで訊いた彼女に、僕の心臓がドクンと脈打つ。
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