かき氷のお話

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 僕がまだ小学生の頃、両親と弟二人と東横線に乗って、渋谷のデパートによく買い物に行った。うちは裕福な家庭ではなかったので、我々兄弟が望むようなゲームやおもちゃを買ってもらえることはまれだった。  時折、デパートの大きな食堂に行くことがあって、そこでカタ焼きそばを食べるのが僕の少ない楽しみの一つだった。    その日は昼過ぎにデパートに着いた、両親は日用品やら洋服やらいろいろ買い物もあったのだろう。小学生の低学年であるから、両親が買うものにはあまり興味もなく、両親の買い物を見ているより、年子の弟と二人でいつものようにおもちゃ売り場でゲームやプラモデルを見ていた。  僕ら兄弟はある意味子供らしくない子供で、おもちゃ売り場で駄々をこねて座り込みをしたり、泣き叫んだりするではない。両親が困ることを僕は理解していて、年子の弟もこの頃は僕に準じて行動をしていた。  その時おもちゃ売り場でゲームを見ていても、買ってもらいたいという欲望でなく暇つぶしの感覚が強かったと思う。  おもちゃ売り場は子供でいっぱい。だけど僕ら兄弟見たいの子供が多くて、親と一緒に何かを買っている子供は少なかった。僕らもおもちゃを買ってもらえるのは誕生日とかクリスマスのイベントだけ。時代もそんな人たちが多かったように思う。  おもちゃ売り場を見ているのに飽きたところ、隣の売り場で人だかり、なにかと思って弟と来てみると、おばさんの実演販売。今でいうTVショッピングののりだろう。冷凍庫から丸い氷を取り出して台の上に載せる、氷を上の金具に固定してハンドルを回転させるとあら不思議、下の刃の部分からかき氷ができるそんな機械だった。  当時子供のおやつとしても、アイスはまだ手に届かないことが多いもので、暑くなったから食べられるものでなく、お客さんのお土産や病院に行ったときなどのご褒美でありつけるもの。食べる機会もそんなにないので、特にかき氷が好きだったわけじゃない。  主婦らが相手の実演販売なので、見ている子供たちは少なく、一番前に陣取って二人でかき氷ができるさまをつぶさに見ていた。当然、イチゴやメロンやレモン小シロップを加えたかき氷も口に入れた。  そんなことをしているところへ、両親が買い物を終えて迎えに来た。手にいっぱいの買い物の荷物を手に東横線のホームへ。  僕が住んでいた駅は各駅停車しか止まらない、まだ特急なんてのはなくて急行に乗っても、到着一本しかかわらないので各駅停車に乗っていく。各駅停車は山手線に近い3・4番線のホームだ。電車に乗って出発を待っていた僕だが、涙が溢れてきた。突然のことに両親は私にその理由を尋ねるが、私は食いしばる涙を流すだけで何も答えない。  何度かのやりとりでさすがの僕も根が尽きて、両親に白状する。あのかき氷の機械が欲しくなったのだと。白状しても涙は止まらない。物事をねだったり拗ねたり泣いたりして困らせない僕だったから、さすがの父も家に帰ると近所の雑貨屋で同じような機会を見つけて購入、当然ながらしばらくはその機会を使って毎日のようにかき氷を弟と食べた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!