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運転席の窓から道順を聞いたマネージャーがエンジンを掛けながら振り返った。
「ここから5分くらいだそうです」
「なんかヤだねぇ、人の家って」
「他のスタッフは1時間半かけて麓のホテルから通うみたいですよ。民家の空き部屋や空き家を貸し出してるみたいなんだけど、ロケハンがなんか不気味だって報告して、みんなやめたみたいでさ」
「えーっ、それも大変ですね…」
「でも監督は曽祖父の家、助監督とカメラの鈴さんは同じ家に泊まるそうです。あとPも」
「そっかぁ。ま、2泊の我慢ね!」
「えぇ」
何十年も前に舗装された道路は、砂利道に近いほど荒れていた。
道すがら見えた古い神社の鳥居も傾きかけている。
「スマホ、圏外」
「あ、僕もです。ラジオはどうかな」
マネージャーがラジオのスイッチを入れる。
で……いつ……って……
「ダメだな。サーチしてみます」
さ…ザーー…のこ…
ガーーー…おまえの……ってや………
ラジオから不気味な声が聞こえ「あ!!」と香菜が叫ぶ。
ひーっひっひぃー…ザーーー
「夕焼けガクブル!わたしこのコーナー好きなの」
「あー、『芝ちゃんのガクガク言わしたろか』の。まだやってたんだぁ」
「聞けないの残念」
「こんなとこで怪談コーナー聞いたら、崖に落ちちゃいそっ…わっ!」
「えっ?」
マネージャーの声に石田香菜が座席の間から顔を出す。
「あ、たぶん、村長さんです」
道端に立つ老人。その後ろに大きな茅葺きの家が見えた。
「もう!びっくりした」
老人が手を挙げて振るのが分かった。
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