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速度を緩めて老人の横に着ける。
マネージャーが助手席の窓を開けて聞いた。
「村長さんですか?」
「ああそうじゃ。ようお越しくださった」
「よろしくお願いします。石田香菜と…」
マネージャーがそう言って後ろに顔を向けると、石田香菜も後ろの席の窓を開けて黙礼する。
「わたしはマネージャーの鶴見といいます」
「えぇ、えぇ。監督さんから聞いておりますよ。さぁ、車はこちらへ」
「いい人そうね」
「うん。優しそうな人で良かった」
髪も顎髭も真っ白で、そこら辺で拾ったような枝を杖代わりにしていた。腰も少し曲がってみえる。
納屋の前の広場に車を停める。
村長はまるでエスコートする様に、ドアを開けた石田香菜に手を差し伸べた。
そこで、村長宅から神主のような出で立ちの男が出てきて、黙礼だけして通り過ぎていった。
「お客様がいらしていたんですね」
「おぉおぉ、神社の神主じゃよ。あ…あることがきっかけでそのぉ、声がでなくなってしもうての。愛想がないように見えるじゃろうが、気にせんでくれ」
声が出ないのにどうやって神事を?あることって?と思いながら石田香菜はエスコートされた手に捕まる。
その手は細いのにしっかりとして、村長の笑顔のように温かみのある掌だった。
「ありがとうございます」と石田香菜も思わず笑顔になる。
「大変じゃったろう?山道なんぞ、慣れてなかろうに」
「いいえ、こう見えて自然が好きなんです。途中、杉とイタドリばかりと思ったら柏や柊もあって」
「柊?」と石田香菜に振り向きもせずに村長が足を止めた。
「はい。柊」
「なにかの見間違いじゃろう。わしはここに長年住んでおるが、柊は全て…」
そこで言葉を止めた村長は、そのあとを続けずに再び歩き出した。
「まぁそれは良い。さあさあ、お上がりください。愚妻がおもてなししたいと言うて、昼から何か作っておるので」
「は…はい」
違和感を感じながら石田香菜はあとに続いた。
なんか意味深…と思いながら。
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