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クランクイン
「監督、石田さんが着きました」
「ああ、そう。どれ」
「石田さん、入りまーす!」とスタッフが大きな声で周知する。
監督が村から借りた空き店舗から出ると、駐車場に停まったSUVから石田香菜が降りるところだった。
「あ、砂沢さん、お待たせしました」と監督に頭を下げる。
「遠いところご苦労さま」
「いえいえ」石田香菜が背伸びをする。
都心から高速を使っても4時間。しかも高速を降りてから山道を1時間半も走らなければいけなかった。
「でもさすがにちょっと疲れました」
まだ20代の半ばとはいえ、言葉通りさすがに疲れが表情に現れていた。
「そうだろうね。まあ、今日の分は終わっているから、今日はゆっくりしていいよ。と言っても何もない村だから時間を持て余すかもしてないけど」と笑顔を見せる。
石田香菜は腕時計に目を向けて「まだ5時前なんですねぇ」と山間に沈みそうな太陽に顔を向けた。
そこら中に自生する鬼灯のような夕陽が綺麗に広がっている。
「じゃぁちょっと休んでから、散歩でもして、ホテルに…」
「あれ、マネージャーさんから聞いてない?かなちゃん、ホテルも旅館もないんだ、この村。撮影が終わる明後日まで、一番大きな村長さんの家に空き部屋をお借りしたから、そこで待機して欲しい」
「民家…ですか?うーん…わかりました」
「よろしく。明日の時間はマネージャーさんに伝えてあるから。スケジュール全般も」
「はい。聞いてます。じゃあ明日、よろしくお願いします」
石田香菜が車に乗り込むと、砂沢監督はスタッフの元に戻った。
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