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すると、あの二人の姿があった。彼女は見つからないように柱の陰に隠れた。
「ママ,ママはどこに行ったの....」
男の子が泣き出しそうにしきりに叫んでいた。
「ママは、今度の花火大会の夜に帰って来るから楽しみにしていなさい....」
男はなだめるように言い続けていた。彼女は二人の織りなす情景に居た堪れなくなり泣き崩れた。
・・・・もはや、花火大会の夜には、わたしはあの男の元に行くしかないのか。それが義務なのか、それとも、宿命なのだろうか。
二人が居なくなると、彼女は溢れ出る涙をハンカチで拭きながら、荷物を受け取り、飛行場の出口へと向かった。
やはり、木田譲二が迎えに来ていた。気障っぽい服、靴、なにもかもが昔と同じだった。木田は彼女と同期入社の銀行員であった。
「お疲れさま、少しやせたようだな。元気か?目が潤んでいるようだな。悲しいことでもあったのか?まあ、転勤というものは悲しい面もあるしな。‥‥これで昔のように好きな時に会えるな。車で来ているから横浜まで送るよ。食事は未だなんだろう?」
「電車で行くわ。横浜は昔住んでいたので懐かしいの」
「この雨だよ。ずぶ濡れになるぜ。俺が君をどれほど待ちわびていたか分かるかい?明日は休日だ。夜明けまで色々と話したい気持ちなんだ」
「わたしは疲れているの。勘弁して」
「そうかい。わかったよ、じゃ、この傘を使いな」
「じゃ、遠慮なく借りるわ」
「また連絡するからな。来週から頑張れよ。じゃ、グッドナイッ~~」
厚かましさと白々しさとが入り混じった木田の言葉使いと態度に、彼女は辟易していたのだった。
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