出会いのとき

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出会いのとき

 夕闇の福岡空港、週末ともあって羽田行き便の搭乗口は混み合っていた。倖沢美輪は搭乗の順番を待つ乗客の長い列にいた。銀行員の彼女は、四年間の博多支店勤務を終え、来週早々転勤先の横浜支店に着任するのだった。  搭乗を終えたものの彼女が座る43番座席は、ずっと先の機内後方にあった。その43番の通路側の席にはすでに中年らしき男が座っていた。それに遠目には見えなかったが、彼女が近づいて見ると、三、四歳くらいの幼い男の子が真ん中の席に座っていた。どうやら子連れの乗客らしかった。  「失礼します」と、彼女が通路側の席の男に言ったとき、男は無言のまま重々しく大きな腰を上げた。背丈はさほど高くはなかったが随分恰幅がよかった。短髪の髪型から見て格闘家なのか板前らしき調理職人かのように思えた。顔はといえば、眉毛が太く、やや彫りの深い、ネット画像なんかでよく見にする西郷隆盛の顔を彷彿とさせた。  窓際の座席に座った彼女は、窓の外の景色を眺め、一仕事終わったかのように、ほっと息をついた。その瞬間だった。 「パパ、パパ、この人、ママなの?ママなんでしょう?・・・・」  突然、彼女の隣に座っている男の子がまるでびっくりしたように大声で叫んだ。
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