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彼女は唖然とし、通路側の席に座る父親らしき男の顔を見た。男は赤面し、気まずい表情で、「どうもすみません。この子の母親によく似ておられるので勘違いしたようです。輝夫、もう泣かない。いいな、お父さんがいるから、もう泣かない。良い子だからな」そう言いながら、男は男の子をあやし続けた。
だが、男の子は一向に泣き止まず、周囲の乗客たちの目線は、こぞって泣き声のするこの通路側の座席に注がれていた。
彼女も気まずくなったのか、それとも周囲の目を気にし過ぎたのか、大胆にも、つい言葉をもらしてしまった。
「わたしでよければ抱かせてください、泣き止むかしら....。良い子ね、ママよ・・・・」
彼女は子供を受け取り、あやした。すると嘘のように子供は泣き止み、彼女の胸のなかですやすやと眠っていった。それを見た男は、九死に一生を得たかのように安堵の胸をなで下した。
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