墓場からのプロローグ

1/1

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/422ページ

墓場からのプロローグ

 あの世、向こうの世界、ニライカナイ。  当分行くことはないだろう、あの境界線には。  死んだら初めていける場所、そこはどんなところなのだろうか。  昔、お寺の和尚さんから聞いたことがある。あの世には天国と地獄があるらしい。  本当にあるのだろうか。当たり前のことだけど、私はいまだに天国と地獄を見たことがない。  「……」  ひっそりと、きっちりと並べられた棺を見ながら私は考えている。  不気味でかつ人間の結末を物語るここは考えるのにいい場所だ。  生きている間は意識しないであろう死ぬことを、真剣に考えることができる。ありがたいところだと私は1つ1つの棺を見守りながらそう思った。 「あとは……掃除か」  棺に埃がついてないか指を滑らせる。  この世界は現実の世界よりもきれいなのか指に埃が着くことはないし、塵も積もってない。  そういうわけで掃除をする必要はないのだが、墓守と言う役職を背負っているという立場と他にやることがなくて暇という実質的な問題からやっている。 「死者のプロフィールでも見ようかな」  棺の上に手を伸ばすと画面が空中に浮かんで現れる。  画面には棺の主の写真と人生が簡単に書かれたプロフィールが書かれている。するするとスクロールをした後に私は死者に頭を下げた。  あなたのプライバシーを覗いてしまいすいません、ありがとうと。  いつもと同じ行動をしていたら後ろから声をかけられた。 「未来……出番だよ」  ああ、今日も出たのかとうんざりしながら振り返る。  新しい棺が増える、それは私の仕事が増えるということ。  仕事は辛いというわけではないが、好きでもない。他にやる人がないから自分がやるしかない。 死者を大切にしなければ、幽霊になって出てきそうだから。 そういう理由で私は今日も頑張らなければならない。 「わかった。陽」  歩く死体発見機の死神、陽に返事をして墓守の未来はその場を後にした。
/422ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加