ぼっちには辛い仲良しイベントの始まり

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「ちょうどいい機会じゃない。進路、決まってないでしょ?」 「ああ、そうですが」 「もちろん、他の人には秘密ね。大事な話だから」  進路と言われた未来はクールフェイスをしながらも内心ぎくりとする。 頭の痛い話だ。まだ自分にはこれと言った進路はない。  一応高校には進学するつもりで適当に志望校を書いて提出したけれど、西中先生はなぜか受け取ってもらえなかった。 ちゃんと母親と話をしたのかって。  親しい人しか心を開かない自分にとって、情報を全く知らないはずなのにどうして自分のやっていることをわかるのだろうかと未来は恐ろしく思った。  西中先生にもSSAがあるだろうかと気になるが、尋ねる気はない。  これ以上一緒にいると息が詰まりそうになる。未来は視線をすっとそらして外を見た。外は自由だ、学校と違って。でもその外にも何かいいものがあるとは限らない。 「進路ね……」  自分の未来なんてろくなことがない。今だってろくなことがないのだから。ある時からろくでなしな位置付けになった自分がまともに生きられるはずかない。ずっと自分はその十字架があるのだ、死ぬまで永遠に。 最悪な現実を悲観しながら未来はプリントをポケットにしまってその場を後にした。  進路は自分の人生のこれからを決める大事なこと。 自分は中学生で、精神的に未熟なところがある人間。 だからこそ、進路を決める際はちゃんと大人と話し合っていきなさいと一か月前にあった学年集会で言われた。  大事なことを話さなければならないのはわかっている。けれど、未来にはその度胸がなかった。  親は母親一人だけ。いつも母は自分を養うのに忙しくて二つか三つ、掛け持ちをしている。顔を合わさない日もある。  すれ違いが多く、話をしたいときは冷蔵庫に貼ってあるホワイトボードにメッセージを書けば時間を作ってくれる。  それでやっと顔を合わせて話ができるのだが、どうせ話をしなくても結論は決まっている。公立に行くことになるのだ。生活がそんなに豊かじゃないという経済的な事情かその方がいいはず。  家庭の事情はちゃんと把握しているから話すまでもなく進路の紙を出した。 「とはいえそこまで生きているかどうかなんだよな」  屋上に向かう階段をのぼりながら未来はつぶやく。  生活費はあとどれだけか、そして冷蔵庫や非常食など今あるものを考えてみる。  もし、何もかもダメになったらこうしようと決めていた。  あと何か月か、何週間か、それとも何日かで自分は終わるだろう。  そんな予感は現実になるのかどうかわからないが、その可能性は高いかもしれない。  あやふやな、不安定を抱えながら未来は屋上の扉を開く。  
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