ぼっちには辛い仲良しイベントの始まり

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 現れたのは若い男、見たことのない顔だ。首から来館者用のネームプレートの首輪を下げている。  屋上に出て辺りを見渡した後、未来がいる給水塔のところまでずんずんと足を進めた。未来はびくっとしながらも平然と装う。  もしかして男は自分に気づいているのではないかと思ったが、自分の能力に疑いはなかった。  今までもこういう場面はあった。  教頭先生や校長先生など見回りに来たのだが自分に気づいたことは一回もない。その経験から未来は自信を持っていた。  この男が話しかけることはないのだろうと。 「受験生がさぼってもいいのかい?」  男はそう言って未来の隣に座った。遠慮なんてなくずかずかと未来が好きな領域に入ってくる。人との適切な距離であるパーソナルスペースを無視するとはいい度胸だなと未来は侵入者をギロリと睨んでしまった。 「そういうあなたは何者?」  突然やってきて、そして自分の存在感を察知した男に少し警戒する未来は尋ねる。どうしてこの人は気づいたのだろうと。  それと同時に既視感を伴う頭痛と視界が少しずつ変わっていくことに気づいた。  この男には何か力があるのだろうかと思った瞬間、とある人の占いを思い出す。  あなたにはいいことが起きると、その男の名は……。 「そうだよな、突然現れて名乗らなかったら警戒するもんな」 と男は軽快に笑った。正体はつかめないが悪い人ではなさそうだ。  傍若無人なところがあるが、自分を咎める様子はない。 男はポケットから名刺を取り出した。 「俺は桐生 翼(きりゅう つばさ)。研究者。君は多分、野朝さんで間違いないかな」 「は? え、ちょっ」  未来は自分の名前を当てられたのと、占いが当たっていることに動揺した。  まあ、あれは占いというか差し金みたいなものだけど。  野朝という姓は珍しいのか同じ苗字の人は他にいない。  だから野朝さんといえば真っ先に自分だと特定される。存在感は薄いとはいえ、珍しい苗字のおかげなのか周りにはあの野朝さんとうっすらと認識されている。  という事情はあれど、初対面でいきなり苗字を当てるなんてどういうことなのだろう。もしかして、事前に自分を調べていたのだろうか。
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