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卒業後、学生時代いつも集っていた連中とは仕事の忙しさもあって疎遠になっていた。
カメラマンのアシスタントとして仕事をしていたコウタとの繋がりも、
私が積極的でいなければ途切れそうな儚いものになっている。
そんな時、初めて仕事の現場でコウタに遭遇した。
「おー。いたいた。久しぶり。」
笑顔で近付いてくるコウタ。
雑誌のグラビア撮影で人気女優を撮るカメラマン、野口寛之に同行していた。
この撮影が野口のカメラだと知らされた時から今日まで、緊張と興奮でずっと落ち着かなかった。
私は上司のチーフスタイリスト、佐々木彩香のアシスタントとして現場に入った。
「初めてだね、現場で会うの。」
「だな。なんか不思議な感じ。」
「野口先生、厳しそうな人だよね。どう?アシスタントの仕事。」
「楽しいよ。まだまだ下っ端で仕事らしい仕事できてないけどな。そっちは?」
「私もよ。顎でコキ使われてる。でも楽しい。」
「カズは?どうしてる?ちゃんと仕事できてるのか、アイツ。」
「カズね。頑張ってるよ。頑張らずに頑張ってる。」
「はは!何それ。やっぱりあのまんまなんだ。」
「まんま。変わんないよ。相変わらず。」
野口のコウタを呼ぶ声で会話は終わった。
卒業して3年。
この業界ではコウタも私もまだまだ新人だ。
お互いバタバタと忙しく動き回るポジションではあったが
同じ現場で共に仕事をしているということだけで心が躍る。
いつか、成長の先に一緒に風を起こす日が来る。
それだけが今の私の夢。
始まらない恋。
それでもいいと思っていた。
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