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「ファッション、って風を起こすとかじゃないと思う。」
コウタは話しの腰を折られたかのが不満なのか、眉間に皺を寄せた。
「身につけるものって…その人の良さを引き出す脇役じゃないとダメだと思うんだ。 十人いれば十人とも良さは違うから…引き立てるものだってそれぞれ違うわけだし。それをひとくくりにして意図的に流行みたいなのを生み出すっていうのはどうかな、って思う。」
カズの言っていることが良くわからない。
コウタに反論している、ということだけは明らかで
コウタも私と同じように感じているのか、不満そうな顔で言う。
「じゃあなに?カズはどんな仕事したいわけ?」
「スタイリストになりたい。」
カズはコウタの機嫌を損ねたことなどまったく気付かないまま、笑顔で返す。
コウタは諦めたかのようにふうっと溜息をつき、まるで子供に言うかのような柔らかな口調で尋ねる。
「……だから。スタイリストになってどうしたいか、って聞いてんの。」
「うん…人が見える仕事をしたいの。服や物を見せるんじゃなくて。」
呆れたように笑いながらコウタは
「わかる?」
と、私を見て問う。
「……わかんない。」
私は首を竦めて返す。
カズはまったく飲んでいないにもかかわらず、
誰よりも酔っ払っているかのような顔でニコニコ笑っている。
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