第六章 近距離恋愛

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「仕事では絶対の自信をもって、完璧にこなすのに、不思議よね」 「はぁ……」 「浮気はダメよ?」と言いながら、私は熱い鉄板の上にタネを乗せた。  ジューッと食欲をそそる音が響く。 「してないです」と言って、芹沢くんも焼き始めた。 「浮気ってさ、相手を不安にさせること全てなのよね」 「え?」  芹沢くんが目を丸くする。  何を考えているか、わかった。 「私が浮気して、蒼が家出したと思った?」  考えを言い当てられて、引き攣った笑顔。 「身体の関係を浮気と言うなら、してないわ」 「身体の関係以外では浮気したんですか?」  身体以外の浮気……。  芹沢くんの言葉に、一瞬戸惑った。  ああ……、そうか――。 「私はした覚えがないけど、蒼がしたと思ったのなら、そうなのかも」  言葉にしてみて、ようやく自覚した。  私、浮気したんだ――。 「どういう意味ですか?」 「蒼を怒らせて、不安にさせたから」と言って、お好み焼きをひっくり返す。芹沢くんのも。  黙って瀧本さんと会った蒼を責めておきながら、私も同じことをしてた。 『仕事』とか『友人』とか理由をつけて、『異性』と会ったのだから。しかも、蒼は知らないとはいえ、初めての男性(ひと)。 「自分が違うと思っても、相手が浮気だと思えば浮気なんじゃないかな」 「よくわからないんですけど……」 「浮気の対義語って何だと思う?」  芹沢くんに向かって、自分に問うた。 「え?」 「私は、誠意だと思う」  自分に答える。 「浮ついた気持ちで傷つけてしまったのなら、誠意をもって償うしかないと思うから」  蒼を傷つけておきながら、尤もらしく言う自分が情けない。 「旦那に家出された私が言っても、説得力ないわね」  作り笑いでそう言って、ビールをあおる。  芹沢くんにも思い当たる節があったようで、何か考え込んだ。それから、顔を上げた。 「あの、お願いがあるんですけど――」 「ん?」 「伊織に……お好み焼きを差し入れたいんですけど」 「ビルに入りたいってこと?」 「いえ。咲さんから……渡してもらえないかと……」  恋人の上司で、上司の妻である私に使いを頼むことに気まずさは感じているようだったけれど、目は真っ直ぐ私を見ていた。  大した男ね。 「いいわよ」  私は笑って頷いた。
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