第六章 チョコレートを溶かす体温

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「コレを取りに来たんだろ……?」  ゆっくりと唇が開き、徐々にチョコレートがその中に消えていく。すべて口に含むと、柔らかくて生温かい舌が俺の指を舐めた。 「俺にも食わせて」  軽く指に力を込めて唇を開かせ、再び舌を滑り込ませる。咲の口の中は甘く、温かかった。その温かさでゆっくりと角を落とし、形を変えようとしている物体ごと、彼女の舌を舐め上げる。  ぬるり、とどちらのともわからない唾液が唇の端から溢れ、顎を伝う。  チョコレートが完全に姿を消すまで、そう時間はかからなかった。  甘い余韻を残して唇を離し、今度はいやらしくこぼれた黒い液を舌ですくう。  咲の首筋を伝い、白いシャツに染みを残していた。  俺はシャツのボタンを外し、液が辿ったであろう道に舌を這わせた。柔らかい谷間を過ぎ、頂を口に含むと、頭上で小さな呻き声が聞こえた。  もう片方の頂を指で擦ると、更に声が聞こえた。 「んっ――。あ……」 「チョコレート、溶けちゃったな」 「ん……」 「もっと食べたい?」  少し強く吸い上げて、舌で転がす。 「いら……な……」 「どうして?」  指でキュッとつまむと、身体がビクンッと跳ねた。 「食べたかったんだろ?」 「う……ん……」  自分のシャツのボタンを外しながら、冷蔵庫のもうひと箱を取り出す。  振り返ると、咲の表情が変わっていた。 「私が来なかったら……どうするつもりだったの?」  低く冷静な声。  ゾクリと背中が寒くなる。 「冷蔵庫の中にはあと何箱あるの?」  久し振りに見る『メス』の顔。  心の奥底を見透かすような、真っ直ぐな鋭い視線。視姦されているようだ。  いつもそうだ。結局、俺は咲のこの視線()に勝てない。  獲物に狙いを定めた獣の目。  自分のものにならないのなら、喉笛を噛み切ってやると言わんばかりの、鬼気迫る眼。 「確かめて……みろよ」  咲の視線()は、俺を『オス』にする。  誰もが欲しがる強い(メス)を跪かせたくなる。  他の誰でもない、俺を求めさせたくなる。 「いくつまで数えられるかな――」  チョコレートを口に含み、咲の唇に押し当てる。チョコレートは咲の口の中で、二人の舌に弄ばれて溶けていく。  三つ目のチョコレートが溶ける頃には、俺たちは一枚残らず服を脱いでいた。  チョコレートを含んだ唇で触れたところに黒い痕を残す。それは咲の全身に広がり、また唇に戻っていく。  最後の一粒と同時に咲の体温に包まれた俺は、発情期のオスのように一心不乱に腰を振る。 「そ……う……」  消え入りそうな啼き声に、支配欲が膨張する。  もっと啼かせたい。  もっと溺れさせたい。 「さくっ――」  不思議な感覚だった。  繋がっている間、『愛してる』とか『会いたかった』なんて言葉はなく、代わりに互いを見つめていた。  互いの存在が夢ではないことを確かめていたくて、目を閉じてしまったら温もりが消えてしまうような気がして、目が離せなかった。  絶頂に達して身悶える咲が俺を締め付け、呑み込む。  快感に身震いして、咲を強く抱き締めた。
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