第六章 チョコレートを溶かす体温

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「蒼……」  耳元で名前を囁かれて、咲の膣内(なか)の俺が再び勃ち上がる。  最奥まで身を埋めると、卑猥な水音が響いた。互いの体液が交じり合い、僅かな隙間から溢れる。生温かい雫が汗と共にシーツに滴る。  ずっと……こうしていたい――。 「もう……動いて……」  痺れをきらした咲が呟いた。 「ダメ」  自分も動きたくて仕方がないくせに、意地悪を言ってみる。きっと、咲にはバレてるだろうけど。 「じゃあ、私が動く」  咲にしがみつかれて、俺は抜けないように腰を抱えた。そのまま、咲が起き上がり、俺の上に座った。 「離れてる間……一人でシてたの?」  これ以上ないほど咲の奥深くを、俺で埋める。 「どうかな」  俺を試すように、咲がわざと俺を締め付ける。屈するものかと、必死で気づかない振りをした。 「蒼……」  咲の声に緊張が走る。  心臓が三倍速で動き出す。  呼吸が追いつかない。 「私ね――」  言葉の続きがわかってしまった。  咲の口からは、聞きたくない告白。 『椎名先輩と寝たの――』  俺は力任せに咲の唇を塞ぐと、思いっきり突き上げた。 「んんっ――!」 「聞きたくない」 「蒼」 「聞きたくない!」  咲の口から他の男のことを聞きたくない。相手が椎名社長であろうと、なかろうと。 「あ――。あっ――――!」  嫉妬に狂った男ほど手に負えないものはない。  何時間繋がっていても、何度果てても、尽きることのない欲望。  気がつくと咲の身体はどこに触れてもイキそうなほど敏感になっていて、常に俺を締め付けていた。  浅く早く乾いた呼吸。涙に濡れて輝く瞳。汗に湿った身体。  全部、俺だけのものだ――。 「そ……お……」  かろうじて聞き取れる、微かな声。  俺は彼女の頭を撫で、額にキスをした。 「俺がどれだけ咲を愛してるか、わかった?」  虚ろな瞳で小さく頷く。 「おやすみ、咲」  咲の目がゆっくり閉じて、涙が一筋こぼれた。  親指で涙を拭い、三週間ぶりに咲を抱き締めて眠った。  出社時間になっても姿を現さない俺たちのスマホが途切れることなく鳴り続け、重い瞼の先に見えるデジタル時計が表示する数字の意味を脳が理解出来るまで、俺たちはひたすらに眠り続けた。
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